今回もベルリン親子留学で来られている方から
いただきました記事を寄稿してまいります。
素直に体験談を書かれていて、参考になるかと思います。
語学がすぐに上達しなくても、慣れていくことが大事です。
我が家はオーストラリア経由で来たのですが、
日本からダイレクトでドイツに来る場合の体験談は
とても貴重であると思います。
ベルリン滞在を楽しむ秘訣―小学校と中学校のWK(ウェルカムクラス)を体験して
モチベーションの維持は大切
ベルリンに来て4年半が経過しました。
日本から来る家族がいる一方で帰る方もおられますが、
コロナ禍の影響で最近は帰国される方が多かったように思います。
最近のメールマガジンで添田さまも
“滞在にはモチベーションが大切”である
と書いておられましたが、それは本当にその通りだと思います。
と言いますのも、帰国される方の帰国理由というのは、
在留資格の問題などではないことが多いように感じるからです。
つまり、ほとんどの方が帰りたくなったから帰っておられる…と思うのです。
帰国の動機
帰国される方を見ていますと、多くの場合、
お子さんが先に帰国を希望されているように感じます。
ベルリンへ移住される方は多くの場合、
親御さんはそれなりに覚悟を決めて来ておられます。
一方、お子さんはドイツのこともあまり知らないまま、
連れて来られていることがほとんどです。
わが家もそうですが、
子供は特にベルリンに来たかったわけではありませんでした。
ある日突然ベルリン行きを告げられ、飛行機に乗せられ、
ドイツ語という未知の言語が使われている国に到着しました。
本人は「地球に不時着した宇宙人みたいな気持ちだったよ…。」と
申しております。
もちろん、それでもベルリンでの生活に
なじんでいくお子さんも多いです。
子供は適応能力が高いですし、
ベルリンの学校生活は日本に比べると楽だからです。
小学生だとお昼過ぎには家に帰れますし、
宿題やテストもそんなにありません。
おもちゃを持って行ってもよいので、
学校でL.O.L.というお人形や
ポケモンカードなどの交換を楽しむこともできるのです。
そんな天国のような環境なのに滞在が苦痛になる理由、
それは多くの場合コミュニケーション、つまり言葉の問題です。
ドイツ語は難しい言語で、
英語と比べて習得するのがはるかに大変です。
WK(外国人のためのドイツ語クラス)にいる間に
ドイツ語を習得できなかった場合、
その後の普通クラスでの生活がつらくなり
「帰りたい…。」とおっしゃるお子さんが多いのではないかと思います。
ベルリンのWK(ウェルカムクラス)、小学校と中学校の教育方針の違い
ベルリンのWK(ウェルカムクラス)には、
小学校と中学校で教え方にはっきりした違いがあります。
小学生の間は
「生活の中で自然にドイツ語を覚える」という方針で、
教科書もありませんし、文法を教わることもほとんどありません。
クラスのみんなとゲームをしたり、
日常の様々な活動を通じてドイツ語に慣れるという教育が行われます。
一方、中学校からは教科書とCDを使って、
文法を中心に、しっかりしたドイツ語の授業が行われます。
そして子供が10歳くらいの場合、
「自然に」ドイツ語を覚えるような能力は
失われていることが多いのではないかと思います。
学校で毎日ウノをしていても、
なかなかドイツ語を覚えられないのではないでしょうか?
わが家もこのパターンで、
小学校のWK(ウェルカムクラス)は毎日楽しいけれど、
ドイツ語の方は心許ないという状態が続きました。
語学の才能がないこともあり、
1年経っても普通クラスでやっていけそうにはありませんでした。
そのため、通常WKは1年で終了することが原則なのですが、
もう1年WK(ウェルカムクラス)に残ることを許していただいて
中学校のWK(ウェルカムクラス)に入りました。
(そうするようにアドバイスしてくださったのは、添田さまでした。)
中学校のWK(ウェルカムクラス)では
移民の子供のために作られたテキストを使って、
基本的な単語や文法から教わることができました。
小学校と違ってテストもありますし大変ですが、
「やっと意味が分かった。」と言うことが増えました。
それでも1年で覚えられることには限界がありますが、
2年間もWK(ウェルカムクラス)でお世話になった以上、
これ以上の残留は認められません。
WK(ウェルカムクラス)に入る外国人は増える一方ですし、
ドイツ政府もWK(ウェルカムクラス)には多額の予算を割いているため、
「早く普通クラスへ行ってください。」というのが、学校の方針だからです。
普通クラス、試練の連続
2年でWK(ウェルカムクラス)を卒業して普通クラスに移りましたが、
そこからは試練の連続でした。
WK(ウェルカムクラス)の人数は全体から見ればごく少数のため、
普通クラスに移ってもWK(ウェルカムクラス)時代の知り合いはいません。
ネイティブの集団の中で1人でやっていかなくてはならないのです。
しかもベルリンの場合、移民が多いこともあり、
外国人だからと甘く見てもらえることもありません。
ベルリンの学校では服装や髪形で怒られることは一切ないですが、
テストの点が悪ければ容赦なく怒られますし、
保護者まで呼び出されます。
呼び出されて学校に行くと
「お子さんを補習塾に入れてください。」と言い渡されます。
困った挙句、現地の塾にも通いましたが、
そこも難しすぎて適応できませんでした。
結局ベルリンの公文塾で1年間お世話になりました。
公文は「習うより慣れろ」という学習形式で、
あまり勉強の才能のない子でも
ある程度のところまで到達させていただけますから、
本当に救われました。
子供の気持ち
子供は親と違って毎日学校に行かなければなりませんから
言葉が分かるかどうかは死活問題です。
ドイツ語に慣れるまでは、
一般クラスへの通学は本当に大変です。
しかもベルリンの学校は3日間以上休む場合は
医師の診断書が必要で、
提出しなければ学校から警察に連絡が行き、
警察が家庭訪問にやってきます。
理由のない不登校は認められないのです。
これは、場合によってはかなりのプレッシャーになります。
しかし言葉の問題を別に、全体として考えれば
ベルリンの学校は日本の学校と比べて
遥かに自由度が高く、しかも楽です。
中高生たちは先生と一緒に正門前の階段で
昼間からビールを飲んでいますし、
髪の毛を赤く染めるのも青く染めるのも自由です。
日本のアニメの影響でブロンドの子が
青色に染めるのが流行っていますが、
何色にしようと一切お咎めはありません。
算数の進度は日本と比べて1~2年ゆっくりめですから、
日本では算数が苦手でもベルリンでは優等生になれます。
小学校はお昼過ぎ、
中学校でも2時~3時には終わりますし、休講も多いです。
クラブ活動を強制されることもありませんし、
帰りに買い食いをしようが寄り道をしようが、
一切誰も気にしません。
アイスやケバブを食べながら、
好きなだけ寄り道をして帰ることもできるのです。
ベルリン市内は14歳以下の子供は交通費が無料ですし、
美術館や博物館も入場無料ですから、
寄り道はしようと思えばどこまでもできます…
結局、子どもが「日本に帰りたい。」と言うかどうかは、
言葉の問題に左右されるのです。
出発前の準備
ですから出発前に準備を進めておくことは大切です。
・ドイツ語にふれる
ドイツ語の単語の何単語かと初歩の文法を知っているだけでも、
WK(ウェルカムクラス)では大きなアドバンテージになると思います。
最近は語学学習のアプリも充実していますから、
子供向けのものをインストールして遊んでおくこともお勧めです。
電子辞書も用意するとよいと思います。
WK(ウェルカムクラス)ではテストのときに
スマホの使用は認められませんが、
電子辞書(オフライン)は許可されることが多いです。
紙の辞書に比べると早く単語を見つけられますから、
持っていると確実に有利です。
ベルリンにも電子辞書はありますが
日本語が入ったものは見当たりませんでしたので、
日本語版が必要であれば日本から持ってくる必要があります。
・英語はしっかりと
算数の進度が日本より1~2年遅いのと反対に、
英語の進度は2~3年早いです。
英語はドイツ語と同じゲルマン系の言語ですから
ドイツ人のお子さんには簡単ですが、
日本人にとってはそうではありません。
しかもドイツの方は“語学ができる≒勉強ができる”と
考えている節がありますから、
ドイツ語のうえに英語までできないと、
あまりよい評価は得られないでしょう。
ですから英語はしっかりやっておく方がよいと思いますし、
可能であればドイツに来る前に短期間でも
英語圏に留学しておくとよいと思います。
英語を「話せる」ことは高い評価を受けますから、
ベルリンでの学校生活は格段に過ごしやすくなると思いますし、
将来的には就職にも有利に働く可能性があるのではないでしょうか。
・必読書はナルト!?
ドイツの子供と共通の話題を持つために、
アニメやゲームを知っておくことも意味があります。
ナルトが圧倒的に人気がありますが、
小学生の間ではポケモンも流行っています。
中学生くらいですとKポップも人気がありますし、
任天堂のゲームは世代を問わず興味のある人が多いです。
マリオやどうぶつの森の話題は、子供たちの間で喜ばれることが多いと思います。
日本から来たというのにナルトも知らないと、がっかりされてしまうそうです。
海外に滞在することで得られるものとは?
長期滞在に向けたポイントを書きましたが、
お子さんが帰りたいと望んだときに帰国しても
親子留学は十分意味があると思います。
短期といっても1~2年滞在すれば
日本を外から眺める視点は養われますし、
そのような視点を持てることこそが大切だと思うからです。
AI全盛の時代、語学力の価値は
相対的に低くなりつつあります。
言葉はどんなに身につけても帰国すれば
日に日に忘れるものですし、
それ自体に意味があるわけではありません。
しかし海外に出て、現地の学校に通学し、
そこで見聞きしたことは忘れません。
日本に帰ってからも、日本の常識が
世界のスタンダードではないことを知ったうえで
毎日の生活を送ることができます。
今いる場所が自分に合わないと思えば
移動できることも体験的に知っており、
先生の意見が唯一絶対でないことも分かっています。
しかしそれは、ずっと日本の学校に通っていると
意識しづらいことだと思うのです。
井戸から飛び出してみてはじめて
自分が住んでいたのが井戸だったことに気づけますし、
カエル以外の生き物に出会ってはじめて
自分がカエルであることを認識できるのです。
そのような意味で親子留学は、
滞在期間にかかわらず、挑戦すること自体に
大きな価値があるのではないかと感じております。
(Waka.M.)